メンタル不調で退職したら失業保険・傷病手当金はどうなる?給付制限・受給期間延長・期限の手順
メンタル不調で辞めるとき、一番気がかりなのはお金の不安ではないでしょうか。「このまま無収入で大丈夫かな」と考え続けると、判断する力そのものが削られてしまいます。
この記事では、辞める前と辞めた直後に「何を、どこで、いつまでにするか」を先に示し、そのあとで失業保険・傷病手当金・自立支援医療・健康保険・住民税を制度ごとに整理します。
まず今やること(辞める前/辞めた直後)
期限があるものを先にまとめます。自分の状況に当てはまる項目から見てください。
- 在職中(退職日より前に):主治医と加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合など)に、傷病手当金の対象になるかを相談しておく。これは相談を済ませておく目安で、申請の締め切りではありません(退職後の期間の分も申請できます)。→3節
- 退職日:傷病手当金を退職後も続けたい場合は、退職日に出勤しない(出勤すると継続給付の条件を満たさなくなります)。→3節
- 退職後すぐ:離職票を会社から受け取る。失業保険の手続きでハローワークに出す書類なので、届く時期は会社に確認する。→1節
- 退職日の翌日から20日以内:任意継続を考えるなら、加入していた健康保険へ申出。協会けんぽの郵送は必着。→5節
- 働けない状態が30日を過ぎたら、なるべく早く:失業保険の受給期間延長を、住所地のハローワークで申請(延長後の受給期間の最後の日までなら申請可能)。→2節
- 通院が続いているなら早めに:自立支援医療を、住所地の市区町村の窓口(障害福祉課・保健福祉課などが多い)で申請。→4節
- 退職の時期を確認:住民税の残りが最後の給与や退職金から一括で引かれるかどうかが、退職月で変わる。会社の給与担当に聞く。→6節
状況別の次の一手
| いまの状況 | 優先する制度 | 次の行動 | 詳しく |
|---|---|---|---|
| (a) まだ在職中で、休めていない | 傷病手当金・自立支援医療 | 主治医に休養の必要性と傷病手当金の対象かを相談。通院が続くなら自立支援医療の窓口へ。辞める判断を急がず、先に休む方法を探す | 3節・4節 |
| (b) 休職中で、傷病手当金を受給中 | 傷病手当金の継続給付 | 退職日までの被保険者期間が継続1年以上あるか、退職日に出勤しない形にできるかを加入先の健康保険に確認。退職後の健康保険も決める | 3節・5節 |
| (c) もう辞めた。今は働けない | 傷病手当金の継続給付・受給期間延長 | 継続給付の条件を加入先に確認。働けない日が30日を過ぎたらハローワークで受給期間延長を申請。任意継続は退職翌日から20日以内 | 2節・3節・5節 |
| (d) もう辞めた。働ける状態で次を探したい | 失業保険(基本手当) | 離職票を持ってハローワークへ。離職理由が体調やパワハラ・長時間残業なら、特定理由離職者・特定受給資格者に当たるか窓口で相談 | 1節 |
在職中に休む流れから退職までを順に知りたい場合は、うつで休職してから退職するまでの流れも参考になります。
1. 失業保険(基本手当):働ける状態になってからの制度
基本手当は、ハローワークで求職の申込みをし、「就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力がある」のに仕事に就けない状態(失業の状態)の人のための制度です。病気やけがのためにすぐには就職できないときは、受けられません。 その場合は次の節の受給期間延長を使います。
給付制限は原則1か月です。 正当な理由のない自己都合退職は、ハローワークで受給資格が決まった日から7日間の待期の後に給付制限がかかります。離職日が2025年4月1日以降なら原則1か月(3月31日以前は原則2か月)です。ただし、退職日からさかのぼって5年間に正当な理由のない自己都合退職で2回以上受給資格決定を受けている場合(今回が3回目以降)や、自分の責任による重大な理由で解雇(重責解雇)された場合は3か月です。また、2025年4月以降に対象の教育訓練等を受けた(受けている)場合は、給付制限が解除されます。
給付制限は雇用保険法第33条で「正当な理由がなく自己の都合によつて退職した場合」などにかかると定められています。体調の悪化など「正当な理由のある自己都合」として特定理由離職者と判断されれば、この条件に当たらないため、給付制限はかかりません。
日数と期間のポイント
- 所定給付日数は90〜360日。手厚くなるのは特定受給資格者と、特定理由離職者のうち雇止めに当たる人(離職日が2027年3月31日までの場合に限る特例)です。体調理由で離職した特定理由離職者が、日数まで会社都合並みになるとは案内されていません。
- 体調理由の場合に変わるのは、必要な被保険者期間です。原則は離職日以前2年間に通算12か月以上ですが、特定受給資格者・特定理由離職者は離職日以前1年間に6か月以上でも対象になります。
- 上司や同僚からの嫌がらせ・著しい冷遇、離職直前6か月のうち連続3か月で月45時間を超える時間外労働が原因なら、特定受給資格者に当たる可能性があります。
- 基本手当の日額は、離職前6か月に毎月決まって支払われた賃金(賞与は除く)の合計÷180の、およそ50〜80%(60〜64歳は45〜80%)です。年齢区分ごとに上限額があります。
どの区分になるかを決めるのはハローワークです。離職票を出すときに、離職理由を体調の悪化や職場の状況とあわせて窓口で伝え、説明に使える資料(通院の状況がわかるものなど)が要るかを聞いておくと進めやすくなります。
(出典: ハローワーク「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」、厚生労働省「令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます」、ハローワーク「基本手当について」、e-Gov法令検索「雇用保険法」第33条(法令本文の該当条を参照)、確認日 2026-10-19)
2. 受給期間延長:働けない間は手続きだけ先に
基本手当を受けられる期間(受給期間)は、原則として離職日の翌日から1年間です(所定給付日数が330日の人は1年と30日、360日の人は1年と60日)。病気やけがで引き続き30日以上働けないときは、働けない日数の分だけ受給期間を延ばせます。延長できるのは最長3年間で、本来の1年と合わせて最大4年です。 所定給付日数が330日・360日の人は、延長できる期間がそれぞれ最大3年−30日、3年−60日になります。
- 申請の時期:働けなくなって30日を過ぎた後、なるべく早く。延長後の受給期間の最後の日までなら申請できます。
- 申請先:住所地のハローワーク。代理人の申請や郵送も可能です。
- 添える書類:ハローワークに確認してください。電話で「受給期間延長を申請したい」と伝えれば、必要なものを確認できます。
基本手当は働ける状態が前提で、傷病手当金の継続給付には「失業給付を受けていないこと」という条件があるため、両方を同時には受けられません。働けない間は傷病手当金(受けられる場合)、働けるようになったら延長した受給期間内に基本手当という順番で組み合わせます。
(出典: ハローワーク「基本手当について」、協会けんぽ石川支部「傷病手当金~資格喪失後の継続給付~」、確認日 2026-10-19)
3. 傷病手当金:条件を満たせば退職後も続けられる
健康保険の傷病手当金は、業務外の病気やけがの療養で仕事に就けないときの制度です。以下は協会けんぽの案内にもとづく内容で、健康保険組合や共済に加入している人は、加入先の窓口で要件を確認してください。
- 連続する3日間(待期。有給や公休も含む)のあと、4日目以降の仕事に就けない日が対象。給与が出ない場合に支給され、給与が少ないときは差額が出ます。
- 1日あたりの額は、支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均÷30×2/3。支給開始日以前の被保険者期間が12か月に満たない場合は、別の計算方法(直近の各月の平均と、協会けんぽ全体の平均額のうち低いほう)になります。
- 支給期間は、支給開始日から通算1年6か月です。
退職後も続ける(継続給付)条件
- 退職日までに、継続して1年以上の被保険者期間があること(任意継続・共済・国保の期間は含みません)
- 退職日に、すでに受給している、または受けられる状態であること
- 退職日に出勤しないこと
途中でいったん働ける状態になると、その後に再び働けなくなっても継続給付は支給されません。基本手当を先に受け始める場合は、この点も踏まえて加入先に相談してください。
(出典: 協会けんぽ「傷病手当金」、協会けんぽ「よくあるご質問(傷病手当金)」、確認日 2026-10-19)
4. 自立支援医療:通院費の自己負担を軽くする
うつ病や適応障害などで通院が続く場合、自立支援医療(精神通院医療)を使うと、医療費の自己負担が原則1割になります(公的医療保険で3割負担の人)。
- 1か月の自己負担の上限は、「世帯」の所得に応じて決まります。ここでの世帯は住民票の世帯ではなく、本人と同じ公的医療保険に加入している人の単位です。
- 市町村民税(所得割)23万5千円以上の世帯は、原則として対象外です。ただし、うつ病などで「重度かつ継続」に当たる場合は、月2万円を上限に対象になります(2027年3月31日までの経過的特例措置)。
- 利用できるのは、指定を受けた医療機関(指定自立支援医療機関)での医療に限られます。
- 受給者証の有効期間は1年以内で、更新の手続きがあります。
- 申請先は住所地の市区町村の担当窓口。必要書類はおおむね、申請書、医師の診断書(意見書)、所得の確認資料、健康保険の資格がわかるもの、マイナンバーの確認書類です。自治体によって異なる場合があるため、申請前に窓口で確認してください。
退職で健康保険が変わるときは、受給者証の保険情報をどう変更するか、市区町村の窓口に確認しておきましょう。
(出典: 厚生労働省「自立支援医療(精神通院医療)について」、厚生労働省「自立支援医療における利用者負担の基本的な枠組み」、確認日 2026-10-19)
5. 健康保険:任意継続・国民健康保険・家族の扶養
退職後の健康保険は、任意継続・国民健康保険・家族の健康保険の扶養の3つから選びます。
- 任意継続:退職日までに継続2か月以上の被保険者期間があり、退職日の翌日から20日以内に申出が必要です。加入できる期間は2年。保険料は、退職前に給与から引かれていた額の2倍が目安です(上限あり)。ここまでは協会けんぽの場合で、健康保険組合では保険料の上限などが異なる場合があるため、加入していた健康保険に確認してください。
- 国民健康保険:保険料は世帯の人数や前年の所得などで決まり、市区町村によって異なります。減免制度もあるため、住所地の窓口で自分の場合の保険料を聞けます。
- 家族の扶養:保険料の負担はありません。年間収入が130万円未満(60歳以上・障害者は180万円未満、19歳以上23歳未満の人は扶養認定日が2025年10月1日以降なら150万円未満。配偶者を除き、年齢は扶養認定日が属する年の12月31日時点で判定)などの条件があります。失業給付や傷病手当金も収入に含まれるため(130万円基準の場合、基本手当の日額3,612円以上だと年間収入130万円以上とみなされます)、受給している間は扶養に入れない、または扶養から外れる場合があります。 家族の勤務先の健康保険に確認してください。
保険料と条件を比べてから決めたい方は、手続きの全体像を退職後の健康保険と年金の記事にまとめています。
(出典: 協会けんぽ「任意継続」、日本年金機構「従業員が家族を被扶養者にするとき」、日本年金機構「19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件が変わります」、確認日 2026-10-19)
6. 住民税:前年の所得に対してかかる
住民税の所得割は、前年1月1日〜12月31日の所得をもとに計算されます。そのため、辞めて収入が減ったあとも、前年の所得に応じた請求が来ます。
- 在職中は給与から天引き(特別徴収)されます。退職して給与がなくなると、翌月以降の分は自分で納める普通徴収に切り替わるのが原則です。転職先が決まっている場合は、前の会社から給与を受けなくなった月の翌月10日(4月中なら4月30日)までに、転職先(所得税の源泉徴収をする会社)を通じて申し出れば、原則として転職先の給与から引き続き天引き(特別徴収の継続)にできます。ただし、4月中に申し出た場合で、市区町村長が転職先での徴収は困難と認めた場合は、転職先での特別徴収にならず、別の方法(普通徴収など)で納めることになる場合があります(地方税法第321条の4第5項ただし書き)。
- 1月1日〜4月30日に退職した場合は、5月分までの残りが最後の給与や退職金から一括で引かれます(その額を超える給与等がある場合に限る)。転職先で特別徴収を続ける申出をする場合の扱いは、退職する会社の給与担当に確認してください。6月1日〜12月31日の退職では、本人が申し出れば一括徴収にできます。
- 納付書が届く時期や分割の回数、支払いが難しいときの相談は、住所地の市区町村の住民税担当窓口に聞けます。
(出典: 総務省「個人住民税」、e-Gov法令検索「地方税法」第321条の4第5項・第321条の5第2項・第321条の7(法令本文の該当条を参照)、横浜市「個人の市民税特別徴収に関する異動届・切替依頼書の提出」、確認日 2026-10-19)
7. 体調が戻ってきたら
ここまでの手続きを終えて、働けるかもしれないと感じ始めたら、次の働き方を考えるタイミングです。急ぐ必要はなく、主治医の判断や自分の体力を優先してください。
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